「編集委員に聞く|Animals・Fishes・Aquaculture Journal 誌」斉藤憲治先生|水産研究・教育機構
MDPI日本支社では、弊社ジャーナルの編集委員の先生方にインタビューを行っております。論文の査読や採択に携わっている先生方の生の声をお届けすることで、研究者の皆様にとって何らかのヒントになることを願っております。
第4回目は、Animals誌、Fishes誌 とAquaculture Journal 誌の編集委員(Section Editor-in-Chief/ Editorial Board Member)、斉藤憲治先生(水産研究・教育機構)にお話をお伺いしました。
斉藤 憲治 (さいとう けんじ)先生 | 水産研究・教育機構
1981年に京都大学農学部水産学科水産生物学講座卒業、1991年に京都大学農学博士課程を修了。
1993年より水産庁水産研究所(現在の水産教育・研究機構)に勤務してきました。水産資源評価、水産増養殖研究、タイヘイヨウクロマグロや二ホンウナギなどのゲノム解読プロジェクトに従事しました。
写真は中国黒竜江省チチハル郊外の嫩江で淡水魚を採集したときのもの (1998年7月)。
先生のご専門分野を教えてください。
魚類の進化遺伝学。3万4千種以上と、脊椎動物で最も多様化した魚類は、高等脊椎動物ではまれなゲノム重複による進化を頻繁に起こしています。そのパターン、プロセス、メカニズムの探求は、魚類だけにとどまらず、脊椎動物全般の進化様式の解明につながると思います。
先生がその分野に進むに至った理由や背景を教えてください。
1970年代中ごろから、身近な淡水魚類 ― シマドジョウ類などに、外部形態では識別困難な2倍体-4倍体種複合体が見つかるようになりました。形態観察に頼っていた魚類の系統分類の終焉を実感しました。
現在取り組んでいる課題や、これから取り組みたい課題について教えてください。
第一線からリタイアし、ハイテク機器を活用できる環境から離れた現在、ローテクを駆使してできることをやっていきたいと思っています。生物研究のハイテク機器や手法の発展には目を見張るものがあります。そのためかえって、ローテクがお留守になっているのではと感じています。ローテクでできることの中に、研究の盲点が隠れていないでしょうか。加えて、一線からリタイアした身としては、これまでお世話になってきた、エディタや査読者の役割を自分が積極的に担うことで、恩返しとしていきたいと思っています。
先生のご研究人生の中で、一番の思い出を教えてください。
20世紀の終わりごろ、分子遺伝など影も形も理解もなかった職場で、システムを一から立ち上げ、伝統的なクローニングとウォーキングでヒラメのミトコンドリアゲノム配列を休み休み4年かけて決定し、論文を投稿したころ、最短1週間で1種のゲノムを決定できる方法が「発明」され、すでに数10種決定していると聞かされたとき。その後、その新たな手法の恩恵を受けて、ミトコンドリアゲノム配列による魚類の系統解析の一端を担うことができました。さらには、シングルコピー遺伝子配列を解析し、4倍体種の起源 ― 多くは種間交雑から始まるパターンとプロセスを明らかにすることができました。
先生のご専門分野で、注目されている研究者がいらっしゃいましたら、その方の研究内容などを含めて教えてください。
脊椎動物におけるゲノム重複進化のメカニズムの探求は自分の能力のはるか外側にあり、手も足も出ませんでした。交雑すると倍数化しやすいという性質はどうして進化したのか、細胞分裂や、染色体の複製、対合、分配などにかかわる、真核生物ならあらゆる種が持っている、ごく基本的な遺伝子がからんでいるのだろうと想像するばかりでした。最近、モデル魚ではない魚種で、この問題に切り込んでいらっしゃる研究者が内外に出てきました。長年の私の疑問が解ける日が来ることを願っています。
先生のご専門分野の若手研究者の方々に向けて、伝えたいメッセージがございましたらお聞かせください。
予想外の結果こそが新たな展開を生む。
最後に、オープンアクセス出版についての印象をお聞かせください。
ジャーナルが紙ベースであったころ、本文が10,000ワードを超える長大な論文の投稿先はほとんどありませんでした。刷り上がり10ページぐらいまでが標準的でした。ジャーナルの電子化でそのくびきが外れたのか、長大な論文が目立ちます。20ページぐらいざらになりました。しかし読者の立場にもなってほしい。無駄に長い論文にお付き合いするのは苦痛です。原点に立ち返って、情報を凝集させ、コンパクトな論文執筆を心掛けてほしいと願っています。
斉藤先生から読者へのコメント
オープンジャーナルには無駄に長い論文が多いと感じています。これには著者の書くスキルに帰すところがあり(私もエディタとして解消に向け日々努力してはいますが)、ひいては研究能力や研究の質の問題に行き着くのではないでしょうか。ということから、目の前の研究を進めるために読む場合はさておき、教養として読むなら、洪水のように日々あふれ出てくる玉石混交の論文の中から、まずは短いものを選んでください。