「編集委員に聞く|Optics誌 Sensors誌」榎並康文先生|長崎大学・アリゾナ大学

MDPI日本支社では、弊社ジャーナルの編集委員の先生方にインタビューを行っております。論文の査読や採択に携わっている先生方の生の声をお届けすることで、研究者の皆様にとって何らかのヒントになることを願っております。

第8回目は、Optics誌とSensors誌(Physical Sensorsセクション)の編集委員(Editorial Board Member/Section Board Member)、榎波康文先生(長崎大学・アリゾナ大学)にお話をお伺いしました。

榎波 康文(えなみ やすふみ)先生

長崎大学・アリゾナ大学

長崎大学工学部工学科電気電子工学コースにて教授を務めるほか、米・アリゾナ大学光科学カレッジにて兼任教授も務めています。

先生のご専門分野を教えてください。

Optical SciencesとOptcal Devicesを専門としています。

先生がその分野に進むに至った理由や背景を教えてください。

レーザ、光科学が持つ将来性や研究の面白さから、現在の専門分野に進むことを決めました。20世紀は光の時代と呼ばれレーザの発明から光を用いた未知の物理現象の探索は非常に興味深いものがあります。21世紀においても光に関する研究は益々その重要度を増していることは間違いありません。元来、他人がやっていることやわかりきったことをやるのが苦手な性格でしたので、新しい分野である光に関する研究は非常に魅力的でした。日本の恩師の勧めで米アリゾナ大光科学センタにPhD学生として来ました。米アリゾナ大学においては光科学やレーザ研究初期の開拓的研究をなされた著名な研究者がおられました。このような環境で研究ができたことも非常に刺激的で自分に対する研究動機付けを高めることができました。

現在取り組んでいる課題や、これから取り組みたい課題について教えてください。

ガラス・ポリマ光変調器の高速化及びその応用、バイオフォトニックセンサを用いた細胞内部観測に引き続き取り組んでゆく所存です。私が研究を行ってきた光デバイスの中で特にプラスチック材料とガラス材料を融合した光変調器に関する研究を20年以上継続し、その駆動電圧や高速性は他では到底達成し得ない性能を持っておりその実験を行ってきました。さらに近年米企業に勤務しその実用化に貢献もしました。今後は光デバイスやその応用を通じて研究だけでなく実用化を視野にいれた研究開発を行う予定です。

先生のご研究人生の中で、一番の思い出を教えてください。

2006年から2007年にかけて米大学において光変調器で世界最低電圧を達成(Nature Photonics 2007年発表)した時が一番の思い出です。その前には米大学で毎日実験に失敗してうなだれて家に帰り辞めて日本に戻ろうかと何度も思ったこともあります。実験に成功しこの実験結果を得たときには何度も実験に間違いがないか確認し実験結果に間違いがないことが分かったときはこの研究を続けて本当に良かったと思いました。この結果は誰のものまねでもなくこの分野におけるエポックメーキングになったと思います。更に米企業に勤務し私が20年以上行ってきた光変調器に関する研究成果を技術移転し実用化に貢献できたことも良い経験になったと思います。

先生のご専門分野で、注目されている研究者がいらっしゃいましたら、その方の研究内容などを含めて教えてください。

米・アリゾナ大学のRobert Norwood教授が光科学及び光通信デバイスに関して多くの成果を上げており注目しています。米ワシントン大学から香港城下大学に移動したJingdong Luo准教授とは20年以上共同研究を行っておりLuo准教授は米ワシントン大学在籍時Alex Jen教授の下で世界で最も高い電気光学係数を有する有機分子を開発したことでも有名です。その研究成果は現在での卓越した内容であり、香港に移動しても本分野の研究をリードすると思われます。

先生のご専門分野の若手研究者の方々に向けて、伝えたいメッセージがございましたらお聞かせください。

融合的な研究は、日本では消極的ですが、海外では多くの成果が融合研究から出ています。挑戦的な研究が国内でも必要と考えます。

最後にオープンアクセス出版についての印象をお聞かせください。

多くの研究者が無料で閲覧できるため、特に日本で予算規模の小さい地方の国立大学においては、非常に役立ちます。さらにオープンアクセス出版が増えてほしいと考えています。

榎波先生から読者へのコメント

現在光に関する学術論文は主に米国の光学会等が主催する学術誌から出ています。米国が研究の主体であることは間違いありませんが、2007年から英国のNature誌がNature Photonicsを出版してから米国の光に関する学術誌も大きく変化しました。したがって米国以外の学術誌が多く出ることは学会にとっても産業界にとってもお互いによい相乗効果をもたらすと考えます。その意味においても本学術誌に投稿していただき研究を活性化することに貢献していただければと考えております。

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