インタビュー_研究者の途

研究者の途:歌 大介 先生

今回のインタビューでは、Biology誌の編集委員としてご尽力いただいております富山大学 学術研究部薬学・和漢系 准教授 歌 大介 先生にスポットライトを当て、ご研究や研究に対する思い、研究の途を目指す学生の方々へのメッセージなどを伺いました。

〜2010年 九州大学 大学院医学系学府

2010–2010年 生理学研究所, 神経シグナル研究部門, 研究員

2010–2014年 生理学研究所, 神経シグナル研究部門, 特任助教

2014–2019年 富山大学, 医学薬学研究部(薬学), 応用薬理学研究室,助教

2019 – 2020年 富山大学, 富山大学学術研究部薬学・和漢系(応用薬理学研究室), 助教

2022年〜富山大学, 学術研究部薬学・和漢系(応用薬理学研究室), 准教授

ご研究内容について

歌先生は、電気生理学という神経活動の記録・解析を利用して、痛み・かゆみといった感覚情報の中枢制御についてご研究をされています。私たちは、痛みとかゆみの感覚を明確に判断できるのに、中枢でそれらの感覚情報がどのようなメカニズムで伝達され調整されているのかは、実はあまりよくわかっていないそうです。「メカニズムが解明されることで、痛み・かゆみに対する治療法や治療薬が開発されたり、特に、アトピー性皮膚炎で苦しむ子どもたちの症状を緩和できれば。」と先生はおっしゃいます。

先入観「ゼロ」で入った研究室

研究を始めたきっかけを伺うと、笑顔で「たいそうな理由はないんですよ、何も知らずに研究室に入ったんですから。」と。

電気生理はトレースが命
トレースにはとことんこだわり、「キレイな波形だね」が最高の褒め言葉だそう

脳の研究がしたいと漠然と思っていらしたものの、研究手法や内容は決まっていなかったそうです。そこで、「大学院進学の時に推薦を受けて入った研究室で電気生理(パッチクランプ法)と出会って、研究内容も実験手法も楽しくなった。」とおっしゃいます。以降、同分野の研究を現在まで継続されています。また、主体性を重んじる当時の研究室の気質もご自身にとてもあっていたそうで、准教授になられた今も先生は、学生の方々の意欲や自主性を大切にした研究室づくりを心がけていらっしゃるといいます。「そのほう(意欲や自主性を大切にするほう)が学生さんたちは考えますし、楽しいと思うんですよ。」と。

「君の研究面白いね」

大学院生時代、ご自身の裁量で自由に研究をさせてもらっていたという歌先生ですが、一方で、ご自身の研究が外部の研究者の興味を引くものなのか確信が持てず、不安な時期があったそうです。そんな中、修士1年生の時に国際学術大会で行った発表が転機になったとおっしゃいます。質疑応答があまりうまくいかず、失敗したな…と思っていらしたそうですが、初めて会った外国の研究者から「君の研究面白いね」と声をかけられたそうです。このことがきっかけで、ご自身の研究に自信が持てるようになったと教えてくださいました。

PubMedに自分の名前が載った

初めての英語論文の出版には、ご苦労が多かったという先生。「英語が嫌いだから理系に進んだはずなのに、まさか、こんなに使うことになるなんてね。」と冗談っぽく笑顔でお話ししてくださいました。

美しい波形は「チャンピオンデータ」と呼ばれます
先生の論文Int. J. Mol. Sci. 2023, 24(2), 1434; https://doi.org/10.3390/ijms24021434 Figure 2より抜粋

初めての英語論文執筆時は、ご自身の研究と近い研究論文から表現方法を覚えて、それでも、一文書いては辞書を引いて…を繰り返し、数ヶ月間をかけて書き上げたそうです。ご苦労された分、PubMedでご自身の名前を検索してトップに出てきた時の感動は忘れられないとおっしゃいます。

しかし、「今の時代は、どんどんいい翻訳アプリやAIができてきているし英文校正もあるので、あまりきれいな英語を書こうとは思わずに、英語でも日本語でも、どう伝えるかを考えることが大切になると思う。」ともお話しくださいました。

学会発表はステージ

「学会発表では、年齢・立場・国籍・大学も関係なく、一人の研究者として判断される。発表の内容によって注目してもらえたり、認めてもらえたりするステージなんです。だからこそ、一発逆転ができるんです。」と先生はおっしゃいます。そして、先生ご自身もそのステージに立つことが大好きで、そういう世界で勝負したいと考えている人には研究は向いているのではないかと教えてくださいました。

同時に先生は、オープンマインドでいることを心がけてらっしゃるそうです。「生きているとどうしても思考が狭くなりがちなので、フラットに色々な意見を聞いて、自分に枠や垣根を作らないようにしています。」「学生さんをはじめ、色々な人の意見を聞けることが大学で働くモチベーションにもなっています。」と。

論文は生きた証

「論文は査読者が評価して認めてくれた一つの作品」だと先生はおっしゃいます。先生は指導する上で、学生の論文発表をとても大切にされているそうです。夜遅くまで、時には土日返上で頑張ってきたのだから、それをなんとか「生きた証」として世の中に出したいという思いが強いとおっしゃいます。そして、学生の方々には、「自信を持って自分の論文なんだぞと胸を張って欲しい」と。

実験が好き、研究が好き

これからも実験を続けますか?と伺うと、即答で「はい。実験が好きで、研究が好きですから。人生一回きりだから、好きなことをしたいです。」とおっしゃる先生。

微細な電流を扱うので、実験室はノイズ(静電気)が極力入らないようになっています
もちろん携帯電話の持ち込みもNG
先生は実験室の中で食事も摂らずに一日中実験に没頭することもあるとか

これから研究を続けるか迷っている学生の方々には、「自分の可能性を信じて、研究が好きだと思えば博士に進んでみるのもいいと思います。卒業後は、大学に残っても企業に就職してもいいですし。中途採用を行う企業も増えてきているので、あまり窮屈に考えすぎなくてもいいと思いますよ。」とアドバイスをしてくださいました。

〜編集後記〜

インタビューの中で、先生の「研究が好き」という思いと、学生の方々への愛情の深さを強く感じました。

グリーン系アロマの漂う居室
居室ではアロマでリラックスされているそう

「研究も大学の仕事も好きだから続けているだけですよ」と先生はおっしゃいます。しかし、強い情熱がなければ好きを貫くことはできないのではないかと思います。インタビューを終えて、「好き」の気持ちに私は正直に生きているだろうか…そもそも、私の「好き」はなんだろうか…と、改めて考えさせられました。先生のお言葉にあった、「人生一回きりだから」を心に刻み、自分の「好き」を大事にしていきたいと思います。

歌先生、ありがとうございました。

【引用文献】

Uta, D.; Kiyohara, K.; Nagaoka, Y.; Kino, Y.; Fujita, T. Developing a Novel Method for the Analysis of Spinal Cord–Penile Neurotransmission Mechanisms. Int. J. Mol. Sci. 202324, 1434. https://doi.org/10.3390/ijms24021434 

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