研究者の途:宮坂 均 先生、株式会社Ciamo 代表取締役社長 博士(工学) 古賀 碧 社長、取締役 後藤 みどり様
今回のインタビューは、Microorganisms誌の編集委員としてご尽力いただいております、崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 教授 宮坂 均 先生と、宮坂先生のもとで起業をされた株式会社Ciamo(しあも)代表取締役社長 博士(工学) 古賀 碧 社長、同社取締役 後藤 みどり様にインタビューをさせていただきました。(以下、Ciamoとさせていただきます。)
宮坂先生のご経歴
1988年 大阪大学薬学部(薬学博士)
1988 – 1990年 キッセイ医薬品工業株式会社
1990 – 1993年 米国 NIEHS(National Institute of Environmental Health Sciences)
1993 – 2014年 関西電力株式会社 環境技術研究センター
2014年 – 現在 崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 教授
Ciamoでは、誰でも簡単に安価で光合成細菌を培養できるキット(くまレッド)を販売しています。光合成細菌の効果で、稲の発育がよくなったり、クルマエビの成長が促進されたりするのだそうです。その光合成細菌培養の基質(エサ)に使われるのは、古賀社長の生まれ故郷、人吉球磨(ひとよしくま)の名産品、球磨焼酎の副産物である「焼酎粕」。今回は、Ciamoの宮坂先生・古賀社長・後藤様が紡いだ絆とチャレンジのお話を伺うことができました。
崇城大学には起業部(現名称:SOJOアントレプレナーシップLab)という、学生の起業を支援する部活動があるそうです。
学部生の時に古賀社長と後藤様は起業部の活動内で知り合い、現在のCiamoを立ち上げられました。古賀社長は人吉球磨を盛り上げたいという思いが強く、「学部生の時には『ごくりくま』という、球磨焼酎のデザート酒を開発販売していました。そこで、球磨焼酎の蔵元の方々に出会って、焼酎粕の存在を知ったんです。日本酒の酒粕は食品として利用できますが、焼酎粕はドロドロの蒸留残渣です。焼酎粕は『球磨焼酎リサイクリーン』という工場でリサイクルされますが、これには莫大なコストがかかります。それに、せっかくリサイクルされても豚の飼料や肥料として6円/kgという安価でしか販売されないんです。」とおっしゃいます。
「(宮坂)先生が焼酎の蔵元まで一緒に行ってくださった」
大学4年生の時に宮坂先生の研究室に入ったという古賀社長。初めは別の研究を行っていたそうですが、「焼酎粕を使って何かできることがないか」と宮坂先生に相談すると、宮坂先生は大学から2時間半もかかる人吉球磨の蔵元まで一緒に話を聞きに行ってくださったそうです。その後、宮坂先生の「やってみましょうか」から、「(宮坂)先生が色々な実験方法を提案してくださって、大学の卒業論文のテーマが『焼酎粕を使った光合成細菌の培養技術』になりました。」と、光合成細菌×焼酎粕のきっかけについて教えてくださいました。
「誰でも簡単に培養ができるように、焼酎粕でよく増える光合成細菌をピックアップしてブレンドしたり、pH や濃度の調整をしたり、と試行錯の繰り返しでした。」と古賀社長は振り返ります。今は綺麗にパウチして販売されている「くまレッド」ですが、当時、エサは家庭用ミキサーで手作業で作り、光合成細菌はペットボトルに詰めて農家さんに渡していたそうです。
現場に直結する研究
宮坂先生は、「現場に行くのが好きなんです。実際に現場で話を聞かないとわからないことがたくさんありますし、そこで課題が見つかることも多いです。」とおっしゃいます。古賀社長も、「研究室では、(光合成細菌の入った水の)散布の期間を1週間ごととかで決めて実験をしますが、実際に農家さんのところに持っていくと、『そんなに頻繁に水やりしないよ』と言われることもありました。現場のやり方を実験に取り入れることも大切ですね。」と、現場からの声を研究・実験に応用していることを教えてくださいました。また、農家や養殖業者の方々は心よくデータや実験資材を提供してくださるそうで、「お世話になっている農家さんのところへ学生と田植えのボランティアに行ったりもしますよ。」と、研究を通して現場の方々と良い関係性を築いていらっしゃる様子がうかがえました。また、宮坂先生は、現場に直結する研究の醍醐味について「実際に使っていただいて喜んでもらえるっていうのが一番嬉しいですね。」と、笑顔でお答えくださいました。
リサイクル工場が水害に
「くまレッド」の販売がうまくいきかけた2020年7月、熊本で発生した豪雨により、甚大な被害をうけた人吉地区。球磨焼酎粕のリサイクル工場(球磨焼酎リサイクリーン)も浸水し壊滅的な状態に。原料の供給元を失った「くまレッド」の製造も中断せざるを得なくなったといいます。しかし、古賀社長は、「落ち込んでいてもしょうがない、やるしかない。」と、学生を募って頻繁に復興のボランティア活動に通ったそうです。片道2時間ほどの人吉地区までの送迎は、崇城大学にバスを出してもらうよう依頼して、その手配もご自身でされたといいます。結果として、学生だけでなく教職員も多く参加して崇城大学全体の災害ボランティア活動に発展したそうです。
「古賀は後輩の面倒見もすごくいいんですよ。あれもこれもやることがあるのに、時間配分が上手いんですよね。」と宮坂先生。古賀社長の行動力とリーダーシップがうかがい知れます。
「なんでもやってみる」
起業にボランティアにと、バイタリティ溢れる古賀社長と後藤様ですが、実はそれ以外にも、ビジネスプランコンテストや高校生向けの講演会などにも積極的に参加されたそうです。中でも、全国学生英語プレゼンテーションコンテストでは、英語専攻の学生も参加する中で、理系学生で初の最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞したと伺いました。
「実は、本大会の1週間ほど前に学内で行われたミニ大会では、原稿も覚えていなくて、グダグダだったんです。でも、そこで恥をかいたから、本番前の1週間猛練習をしました。」と古賀社長。崇城大学には、SILC(Sojo International Learning Center)という英語教育に特化した施設があり、後藤様は、「そこ(SILC)の先生方がボイスレコーダーに原稿の音源を吹き込んでくださって、それを毎日聴いて練習しました。初めは大会に出るのが本当に嫌だったんです。でも、充実していましたし、やってみてよかったです。なんでもやってみないとわからないことがたくさんあると思います。とりあえずやってみて、自分の選択肢を増やすことが大切なのかな。」とチャレンジを続ける理由を教えてくださいました。
水産業へも展開
古賀社長の大学院の研究は「光合成細菌のクルマエビ養殖での利用」。古賀社長は、海水由来の光合成細菌を養殖水槽に加えるとクルマエビの成長が促進されるという研究論文を発表されています。海水由来の水産用光合成細菌の培養・販売はおそらく世界初だそうで、Ciamoでは一昨年から販売を開始しています。
宮坂先生は「光合成細菌はまだまだメジャーではないですが、いいものだっていうのは間違いないので、どんどん広めていきたいです。」とおっしゃいます。
大学生・大学院生の方々にアドバイス
宮坂先生は、「大学の中にいると付き合いが狭くなりがちですから、ボランティアでもなんでも、普段は話さない人と話す機会を増やすといいと思います。そうすると他の世界が見つかるかもしれませんからね。」とアドバイスをくださいました。
実際、先生はインタビューの中で「この間、阿蘇の花農家さんのところで、花に病気が出て困っているっていう話を聴いたので、光合成細菌で病気対策だったり花の色を綺麗にしたりする研究もやってみたいなと思っているんです。」「宮崎県や鹿児島県でさつまいもの病気が出ているっていう話も聴いたので、(光合成細菌で)その対策ができれば。」「昨日は農業高校の先生と家畜のプラセンタ(胎盤)についてお話をしたんですよ。畜産現場では廃棄されるそうなので、有効利用できないかな、と考えています。」というように、まさに、いろいろな分野の方々とお話をされてご自身の研究やご興味の幅を広げていらっしゃるように感じました。「まぁ、新しいことを色々やってみるのが好きなんですよ。」と少しはにかみながら教えてくださったのが印象的でした。
〜編集後記〜
インタビューを通して、宮坂先生・古賀社長・後藤様の強いチームワークと、「なんでもチャレンジしてみる」という気概のようなものを感じました。
課題に直面した時はどうされるのかを伺うと、古賀社長は「周りの人に相談しながら解決していきます。相談できる方々がいるっていうのは、学生の時にイベントやコンテストに参加する中でできた繋がりがあるからなので、チャレンジしてきてよかったなと思います。本当に周りの人たちに支えられています。」とおっしゃいます。しかし、ついつい性悪説が頭を掠めてしまう私などは、「出会った人が本当に親身になって相談に乗ってくれたり支えてくれたりするのかな?」と疑ってしまいます。ところが、インタビューを終えてその理由がわかった気がします。というのは、宮坂先生がいろいろなことに興味を持って、ご自身も古賀社長や後藤様と一緒に取り組んでいらっしゃること、そして、古賀社長と後藤様が何ごとにも真摯にかつ情熱を持ってチャレンジしていらっしゃることが、インタビューを通してよく伝わってきたからです。そんな姿に、羨ましいような、ワクワクするような、とても幸せな気分にさせていただき、インタビュー後にはやっぱり私も、これまで御三方に出会われた方々と同じく、心から応援したいと思っていました。
宮坂先生の研究室からはP&A株式会社という学生ベンチャーが昨年12月に起業しました。この会社はクロレラやユーグレナといった微細藻類の活性化剤を販売しています。また現在、他の学生の方と家畜のプラセンタによるビジネスプランも考えていらっしゃるそうです。さらに多くの大学発学生ベンチャー企業が誕生することを願っております。宮坂先生・古賀社長・後藤様、ありがとうございました。
参考文献
Iwai R, Uchida S, Yamaguchi S, Nagata D, Koga A, Hayashi S, Yamamoto S, Miyasaka H. Effects of LPS from Rhodobacter sphaeroides, a Purple Non-Sulfur Bacterium (PNSB), on the Gene Expression of Rice Root. Microorganisms. 2023; 11(7):1676. https://doi.org/10.3390/microorganisms11071676
Iwai, R.; Uchida, S.; Yamaguchi, S.; Sonoda, F.; Tsunoda, K.; Nagata, H.; Nagata, D.; Koga, A.; Goto, M.; Maki, T.-a.; et al. Effects of Seed Bio-Priming by Purple Non-Sulfur Bacteria (PNSB) on the Root Development of Rice. Microorganisms 2022, 10, 2197. https://doi.org/10.3390/microorganisms10112197
Koga, A.; Goto, M.; Hayashi, S.; Yamamoto, S.; Miyasaka, H. Probiotic Effects of a Marine Purple Non-Sulfur Bacterium, Rhodovulum sulfidophilum KKMI01, on Kuruma Shrimp (Marsupenaeus japonicus). Microorganisms 2022, 10, 244. https://doi.org/10.3390/microorganisms10020244
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