
インタビュー:ノーベル賞受賞者ヘーラルト・トホーフト教授
ヘーラルト・トホーフト教授は、電弱相互作用の量子構造を解明した業績により、1999年にノーベル物理学賞を受賞しました。この研究は、以降の理論物理学の進展に大きな礎を築き、現在もこの分野の発展において重要な役割を果たしています。
トホーフト教授は、MDPIのUniverse誌に論文「Quantum Clones Inside Black Holes」を投稿しました。この機会に、私たちはトホーフト教授と連絡を取り、理論物理学という広大な分野についていくつかの質問を投げかけることができました。研究の動機、現代の物理学が抱える主要な問い、そしてそれらに答えるうえで量子力学が果たす役割など、トホーフト教授の回答からは、この分野の研究者にとって貴重な洞察と指針を与えてくれます。
理論物理学への関心を保ち続けられた理由
トホーフト教授:私は科学者として成功していた親族に恵まれました。皆とても刺激的な存在で、まさに理想的な手本でした。理論物理学の世界は、私が関わっていた間ずっと、刺激的で楽しいものでした。その歴史は興味深く、多くの謎や研究、偉大な発見に関する素晴らしい物語が語られ、私自身も今なお語り継がれる出来事に身近に接してきました。だからこそ、私はずっとこの分野に強い関心を抱いてきたのです。
もちろん、こうした刺激的な展開は今も続いており、私たちは日々新たなことを学び続けています。ただし、残念ながらこの分野は以前より難しくなってきています。競争は激化し、簡単に成功できる機会は減少しています。誰が悪いというわけではなく、これはこの分野の性質が変化した結果です。簡単な問題はすでに解かれ、難しい問題だけが残っているのです。
これは、素粒子実験物理学など、実験物理の分野にも当てはまるようです。
これから解明すべきこと
トホーフト教授:幸いにも、謎はまだ残されています。とりわけ重要なのは以下の点です。
- 量子粒子の法則と一般相対性理論を、正確にどのように調和させるべきか?
- そのためにどのような研究や計算が必要なのか?
そしてもちろん、他にも空白領域はあります。ダークマター、ダークエネルギー、自然界の自由に調整可能な定数の起源などです。ただし、こうした未解明の領域は意外に少なく、私はそのことを少し不安に思っています。もっと根本的な謎がたくさんあってもいいはずだ、と。でも、誰もがそう考えるわけではありません。
実際、私と同様の不安を抱えながらキャリアを終えた科学者もおり、その懸念は後になって取り越し苦労だったと判明しています。私の心配も、そうであればと願っています。さて、どうなるでしょうか。
自然界の量子法則が生む謎
トホーフト教授:多くの研究者は、量子力学によって、場や粒子の振る舞いを無限の精度で決定することができない方程式を使わざるを得ないと考えています。しかし私は、正しい方程式さえ見つかれば、現在私たちが“量子力学”と呼んでいるものは、独立した力や情報源ではなくなると確信しています。
私は、他の研究者も私と同じように主張し、やがて私の考えが正しいことに気づくと期待しています。つまり、今日“量子力学”と呼ばれているものは、実は統計処理のための純粋な数学的スキームにすぎないのです。宇宙には非常に多くの場と粒子が存在するため、高度な統計的手法が不可欠です。そして、その最も強力なバージョンが“量子力学”なのです。この洞察なしには、正しい方程式は見つからないでしょう。
論文「Quantum Clones Inside Black Holes」について
トホーフト教授:この“量子クローン”に関する私の研究がうまくいけば、それは正しい方向への一歩です。これまでもそうした一歩をいくつか踏み出してきましたし、これからも続けていければと思っています。ブラックホールの地平面は、情報が消える場所というよりも、失われた情報を私たちに投影し返す鏡のような存在です。
研究の前進を支える
革新的な研究の発表を支援することは、MDPIの価値観の中核です。2015年に創刊されたUniverse誌は、研究者が自身の成果をオープンアクセスで広く可視化できるよう、今後も支援を続けていきます。
※本記事はMDPIの英語ブログを元に作成したものです。元記事はこちら。