
インタビュー:長崎大学・上田篤志先生(Molbank誌優秀査読者賞)
MDPIは、迅速な出版プロセスを実現する一方で、科学的厳密さと研究の信頼性を重視しています。その両立を可能にしているのが、日々誠実に査読に取り組んでくださる査読者の皆さまのご協力です。
MDPIの「優秀査読者賞(Outstanding Reviewer Award)」は、投稿された論文に丁寧に目を通し、徹底した専門的評価を行いながらも、迅速なフィードバックを提供してくださった査読者に贈られる、各ジャーナル年次の表彰制度です。前年度にご活躍いただいた査読者の中から、特に顕著な貢献を示された方が選出されます。
今回は、Molbank誌にて2024年度の優秀査読者賞を受賞された、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科准教授・上田篤志先生にお話を伺いました。
1. 先生の現在のご研究分野について教えてください。
私の研究分野は有機合成化学で、現在は非天然型アミノ酸を含むペプチドの化学合成に取り組んでいます。たとえば、α,α-二置換型 α-アミノ酸の導入は、ペプチドの酵素的安定性を高めるとともに、二次構造の制御にも有用です。また、ペプチドの側鎖における炭化水素ステープリングも、二次構造を安定化させる有効な手法です。この方法ではE体とZ体の混合物が生成されますが、私たちはα位に環状構造を有する二置換型アミノ酸を用いることで、炭化水素ステープリングの立体選択性を高めることに成功しました。
2. Molbankの査読を引き受けてくださるモチベーションは何でしょうか?
Molbankは他のジャーナルにはない特徴を持っています。1つの化合物に特化して投稿できる雑誌で、普通なら日の目を見ないような化合物に対してもスポットを当てることができます。こういったジャーナルが今後も続いてほしいという思いがあります。私自身もMolbankに論文を投稿したことがありますが、改めてその化合物を見直すことで「もっと発展ができそうだな」と研究を進めるきっかけになりました。誰かがせっかく作った新規化合物があるのであれば、それを世に出すという役割がMolbankにはあると思いますし、それは他にはない役割だと思います。
3. 査読の際に重視しているポイントはありますか?
その研究結果がなぜ重要なのかという点は特に重視しています。せっかく良い研究をしているのに、その成果がどのように役立つのかをしっかり書けていないのはもったいないと思いますので、イントロダクションなどにその点を書いてもらうよう指摘しています。1つの化合物について気軽に投稿できるのがMolbankのよいところですが、たとえば別の論文の基質検討で出てきた化合物をなんでも出せるかというと難しいと思います。その研究にどのような意義があるのかは査読で見ています。
4. 論文を査読することは、ご自身の論文執筆に影響を与えていますか?
査読をしていると、どういった点が足りていないかが見えてきます。たとえば、イントロダクションに書かれていることが結果で触れられていなかったり、逆に結果に記載されているデータは多いのに研究の目的がイントロダクションに書かれていなかったりなどです。そういった部分を指摘していると、自分の原稿でも気をつけようという意識が自然と芽生えます。
5. 優れた査読に必要な資質は何だと思いますか?
中立性と公平性だと思います。著者の名前や所属などの情報に影響されず、内容だけを見て評価することが重要です。
6. 最近、AIや自動化ツールの進展がめざましいですが、これらが論文の査読に与える影響についてはどう考えますか?
人間でもAIでも、公正に査読してくれるのであれば、どちらでも問題ないと思います。AIに頼ってしまいそうという思いもありますが、補助としてAIを利用してスピードアップにつながるのなら良いと思います。
7. 現在の学術出版市場についてどうお考えですか?また、オープンアクセスモデルについてのご意見もお聞かせください。
最近はジャーナルの数が非常に増えていて、投稿者にとっても査読者にとっても大変です。選択肢が増えるのは良いことですが、増えすぎるのも問題かと思います。オープンアクセスに関しては、掲載料が非常に高額なジャーナルがあり、資金のある研究室でなければ投稿できないという状況は好ましくないと思います。MDPIはディスカウントもあるので、他と比べると出しやすい方かと思います。
8. この優秀査読者賞が先生にとって新たなキャリアの機会につながることを願っております。このような賞は、研究者へのキャリアサポートになると考えられますでしょうか?
研究の賞は限られた人しか取ることができませんが、その中でこういった若手でも地道に査読をしていれば取れる賞があることは、キャリアサポートになると思います。今後も続けていこうというモチベーションにも繋がりますし、ステップアップのきっかけにもなると思います。
9. 本賞の受賞者としてメッセージがあればお聞かせください。
今回、優秀査読者賞を受賞できたことを大変光栄に思っています。これまで地道に査読してきた中で、こうした形で評価いただけたのは嬉しかったです。今後もこのような賞があるなら、誰にでもチャンスがあると思いますし、皆さまもMolbankへの投稿や査読に関わっていただけたらと思います。