インタビュー:パナヨティス・ヴァロツォス教授(アテネ大学名誉教授)

2024年のGeosciencesベストペーパー賞は、パナヨティス・ヴァロツォス教授らのナチュラルタイム解析における地震活動エントロピー変化を利用した大地震の発生時刻推定に関する論文に決定しました。アテネ大学、静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門(NaDiR)、メキシコ国立自治大学らの共同研究です。

以下は、筆頭著者であるヴァロツォス教授へのインタビューです:

1. 読者の皆様に簡単な自己紹介をお願いします。

私はギリシャ・アテネ大学の名誉教授です。1970年代から、固体(いくつかの岩石を含む)の誘電特性に関心を持ち、固体中の欠陥の生成や移動を支配する熱力学パラメータに関する厳密な理論基盤を築いてきました。

1980年代初頭、イオン結晶中の異価不純物が外因性欠陥を形成し、それが電気双極子を生成することを発見しました。これらの双極子の緩和時間は圧力(応力)に依存します。応力がある臨界値(σcr)に達すると、これらの双極子が協調して配向し、一時的な電気信号が放出される可能性があります。これは、破壊の前段階として震源域の応力が増大する地震の直前に発生する可能性があり、この信号は地震電気信号(SES: Seismic Electric Signals)と呼ばれています。1981年以降、これらの信号は実験的に検出されており、将来の地震の規模や震央に関する情報を提供します。ギリシャをはじめとする複数の国で観測されています。

さらに、2001年には「ナチュラルタイム(natural time)」という新しい時間概念を導入しました。ナチュラルタイム解析により、複雑系の動的進化の研究が可能となり、その系が動的相転移(大地震発生)に近づいているかどうかを特定することができます。

これまでに約300本の論文と5冊の専門書を執筆・共著しています。

写真1:1970年代から1980年代初頭にかけて、Varotsos 教授は固体中の欠陥生成・移動を支配する熱力学パラメータの基盤を確立しました。これにより、臨界点に近づいたときに、SESと呼ばれる一時的な電気信号が放出され、大地震が差し迫っていることが示唆されます。

2. 受賞論文の主要な成果や貢献について簡単に教えてください。

ナチュラルタイムにおけるエントロピー変化(時間反転下)と非加法的エントロピー(ツァリスエントロピー)を組み合わせることで、差し迫る大地震の発生時刻をより正確に特定する新しい手法を提示しました。

この方法により、日本・メキシコ・カリフォルニアにおける大地震発生の予測時間帯をより精密に限定することに成功しました。たとえば、2011年の東日本大震災にこの手法を用いると、発生のおよそ1日前に予測が可能です。同様に、M8〜M7級の地震でも予測時間帯の短縮が達成されました。たとえば、2017年9月7日にメキシコ・チアパス州沖で発生したM8.2地震(100年以上で最大の地震)、同年9月19日のメキシコ内陸M7.1地震、2019年7月6日にカリフォルニアで発生したM7.1リッジクレスト地震などです。

3. この研究テーマに取り組むきっかけは何でしたか?

ある地域の地震活動を解析する中で、時間反転下でのナチュラルタイムにおけるエントロピー変化が、ツァリス非加法エントロピーよりも予測精度が高いことが明らかになりました。ナチュラルタイムエントロピー変化は一意的な最小値を示しますが、ツァリスエントロピーでは複数の最小値が出現する場合があります。本研究では、両者の特性を統合し、地震予測に応用しました。

写真2:2000年代、中央研究室にて Varotsos 教授が、SES活動が発生したことをチームに説明しています(背後の多連記録装置に出力されている)。ナチュラルタイム解析を通じて、大地震が迫っていることが示されています。

4. 本研究における最大の困難と、それをどう克服したか教えてください。

ナチュラルタイムにおけるエントロピー変化の最小値(時間反転下)は、変動の複雑性を定量化する指標の明確な増加を伴います。この最小値を差し迫る大地震の前兆として一意に識別することができます。この特性を得るためには、問題設定を適切に行う必要があり、そこが非常に困難でした。

5. ベストペーパー賞の受賞について、どのように感じていますか?この受賞の意味は何でしょうか?

今回の受賞は、数十年にわたる私たちの地震予測研究が評価されたものだと感じています。また、地震予測に対する科学者や地震学者の関心が、時間とともに高まりつつあることの表れでもあります。

6. この受賞にあたり、感謝を伝えたい方はいますか?

本論文の一部の成果は、故・上田誠也先生の指導のもと得られました。本論文は先生の追悼に捧げたものです。

7. このジャーナルに投稿しようと思った理由、そしてGeosciencesに投稿することの利点について教えてください。

Geosciences は、私たちの研究成果を発表するのにふさわしい雑誌です。オープンアクセス形式であることや、SNSでの共有が可能であることから、関心を持つ多くの研究者に成果を届けることができます。

8. 今後の研究の展開について教えてください。追試研究や応用などは予定していますか?

この研究には今後多くの展開が見込まれます。たとえば、発生時刻の予測ウィンドウのさらなる短縮や、台湾など他地域の地震への適用が考えられます。

9. あなたのようにインパクトのある研究を目指す若手研究者に、アドバイスをお願いします。

優れた成果を得るためには、何十年にもわたる努力が必要なこともあります。困難であっても、研究の目標を追い続けることが大切です。

 

※本記事はMDPIの英語記事を元に作成したものです。元記事はこちら