July 11, 2025

宇宙の巨大構造は、想定以上に大きいかもしれない

標準的な宇宙論では、大規模なスケールにおいて宇宙は一様に均質かつ等方的であると予測しています。しかし、ここ数十年で、この予測に異議を唱える巨大な構造が次々と発見され、注目を集めています。中でも特に大規模な構造として知られるのが、2014年に発見されたヘラクレス座・かんむり座グレートウォールです。
2025年、最新のガンマ線バーストデータを用いた研究により、このヘラクレス座・かんむり座グレートウォールが、これまでの想定よりもさらに巨大である可能性が示唆され、MDPIのジャーナル『Universe』に掲載されました。

ガンマ線バースト:遠方の宇宙を映す灯台

ガンマ線バースト(GRB)は、宇宙で観測される現象の中で最も強力な部類に入ります。特筆すべきはその極めて高い光度です。この明るさのおかげで、GRBは非常に遠方、すなわち宇宙の過去の時代からも検出することが可能です。現在の観測技術では、赤方偏移 z ≈ 7、あるいはそれ以上の高赤方偏移を持つGRBも捉えられています。ヘラクレス座・かんむり座グレートウォールもGRBによって示唆された構造の一つですが、GRBが一時的な現象であるため、その全貌を一度に捉えることは難しく、真のサイズや形状はこれまで不明確なままでした。

ヘラクレス座・かんむり座グレートウォールの拡張

本研究では、NASAのSwiftやFermiによって検出されたGRBの中から、天球上の正確な位置と赤方偏移が測定された542のGRBデータセットが用いられました。特に、今回の研究では北銀河半球に位置する262のGRBに焦点を当てて解析が行われました。結果、ヘラクレス座・かんむり座グレートウォールについて、以前の研究で報告された3つのクラスターに加え、新たに、そしてより大規模な4番目のクラスターが特定されました。
この4番目のクラスターは、その赤方偏移範囲が0.33 ≤ z ≤ 2.43という、これまでのどのクラスターよりもはるかに広範な範囲をカバーしていました。これは、ヘラクレス座・かんむり座グレートウォールがこれまでに考えられていたよりもはるかに大きなサイズを持つという証拠であり、先行する小規模なクラスター群を包含する形で存在していることが示唆されています。このヘラクレス座・かんむり座グレートウォールのサイズの拡張は、統計的なばらつきや既知のサンプリングバイアスによって引き起こされたものではないと結論付けられています。

示唆される宇宙の姿

今回のヘラクレス座・かんむり座グレートウォールに関する結果は、宇宙に存在する大規模構造が、標準的な宇宙論モデルが予測するスケールをはるかに超え得るという証拠をさらに強固にするものです。このような巨大な構造の存在は、宇宙の均一性や等方性という宇宙論の基本的な前提に疑問を投げかけるものです。なぜこのような構造が形成されたのか、その起源と進化のメカニズムを解明することは、宇宙全体の歴史を理解する上で不可欠な課題であると考えられます。