「編集委員に聞く|ncRNA・Cells誌」田口善弘先生|中央大学

MDPI日本支社では、弊社ジャーナルの編集委員の先生方にインタビューを行っております。論文の査読や採択に携わっている先生方の生の声をお届けすることで、研究者の皆様にとって何らかのヒントになることを願っております。

第2回目は、ncRNA誌とCells誌の編集委員(Editorial Board Member/Collection Editor)、田口善弘先生(中央大学)にお話を伺いしました。

田口 善弘(たぐち よしひろ)先生 | 中央大学

出身は東京工業大学です。卒業研究は地震予知論(地球電磁気学)をやっていました。大学院からは同じ大学ですが、物理学専攻に進学し統計力学の研究をしました。修士では量子スピン系の基底状態の研究を、博士ではフラクタル物理学の研究をしました。博士課程を1988年に終えて博士号を取得し、そのあと、同大学の物理学科で1997年まで助手を務めました。その後、中央大学理工学部物理学科で2006年まで助教授を務めてから教授に就任し、現在に至っています。途中、2009年4月から2010年3月まで、欧州バイオインフォマティクス研究所でサバティカルを過ごしました。

先生のご専門分野を教えてください。

僕の専門分野はバイオインフォマティクスです。バイオインフォマティクスと言っても分野は広いですが、特に遺伝子発現プロファイルやマルチオミックスデータを多次元尺度構成法、主成分分析、テンソル分解などのEmbedding法で解析する方法を長年研究しています。こういうデータは統計学では高次元少サンプル問題と言って難しくて扱うことができないデータなので、経験的にうまく行く方法を探索しています。

先生がその分野に進むに至った理由や背景を教えてください。

僕は、もともとは非線形非平衡多自由度系の研究に興味がありました。最初は物理学のアプローチを採用していましたが、限界があることに気づいて統計的なアプローチに転向しました。その時、生物学がもっとも対象として相応しいと感じたのでこの方向に至っています。

現在取り組んでいる課題や、これから取り組みたい課題について教えてください。

テンソル分解を用いた、教師無し学習による変数選択法という方法を開発しています。すでにバイオインフォマティクスの分野では応用に成功して多数の論文を書き、2019年にはシュプリンガー社から単著で300頁超の英語の専門書を出すことができました。現在はこの方法を更に発展させるべく、日夜研究にいそしんでいます。

先生のご研究人生の中で、一番の思い出を教えてください。

欧州のバイオインフォマティクス研究所で過ごした、サバティカルの期間が一番楽しかったですね。当時、研究は実はあまりうまく行っていなかったのですが、単身で赴任したこともあり、論文を読んで研究することしかしていなかったので。

先生のご専門分野で、注目されている研究者がいらっしゃいましたら、その方の研究内容などを含めて教えてください。

バイオインフォマティクスの分野で名前をあげるといろいろ支障がありそうなので (笑)、他の分野の人で。若手では深層学習を研究している今泉先生。シニアだと僕が実質上の最初の指導院生に該当し、今は量子アニーリングで有名な西森先生ですかね。

先生のご専門分野の若手研究者の方々に向けて、伝えたいメッセージがございましたらお聞かせください。

僕は自分でいうのもなんですが、若い頃物理ではそれなりの成功をおさめていたと思います。でも、こっちの方に移ってきて今は良かったと思います。自分が積み重ねてきたものを投げ捨てるのは勇気が要りますが、投げ捨てないと年を取ってからきっと後悔すると思います。惰性ではなく、その時に一番自分が重要だと思うことを研究しましょう。

最後にオープンアクセス出版についての印象をお聞かせください。

皆が読めるようになるので大変よいことだと思います。その一方でお金のない研究者は論文が出せなくなってしまうので問題だと思います。国は、研究者がオープンアクセスで論文を出す費用を、研究費とは別にサポートすべきだと思います。

田口先生から読者へのコメント

科学は人類にとって(現状では)一番大切なものだと思います。愛の方が大切だよって思うかもしれないけど、愛も脳の機能である以上、科学の対象です。いつか科学は愛を解明するでしょう。だから、愛より科学が大切、なんですよね(笑)。

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